景観の色彩を学び日本の地域にあう「色」を知る。

「近年、景観デザインへの注目が高まりつつあります。土木景観事業において、街にふさわしい色彩はもちろん、景観全体を調和させていくことが重要視されるようになった現代において、景観材料メーカーの責任もまた、大きくなってきています。
街を眺めてみると、景観を崩しているのは、建物の外壁タイルや車道のアスファルト、歩道の舗装材、看板のプラスチックや金属類といったそれぞれの材料が無秩序に配置されているからです。だからこそメーカーが材料の持つ影響力をしっかりと受け止め、景観についての知識を深め、その想いを設計者に伝えていかなければなりません。」

色彩計画家 吉田 愼悟

CLIMAT 代表取締役
武蔵野美術大学教授
景観デザイン支援機構会員 代表幹事
多くの色彩、景観事業に携わる。

本内容は弊社で吉田先生をお招きし、開催された景観色彩の講習会を基に改めて編集されたものです。

世界各地の「ベースカラーとは」

グローバル視点により気付く 世界には独自の色彩がある

私は、色彩環境計画を専門としています。大学を卒業後に渡仏し、カラリストの第一人者である「ジャンフリップ・ランクロ氏」のもとで"色彩の地理学"を学びました。
ランクロ氏は、フランスのさまざまな地域を歩いて色彩調査を行い、各地域の色彩を明らかにしてきました。ランクロ氏は留学生として京都に住んだことがありますが、「初めて京都に行ったとき、どんよりとしていて暗い空間の印象だった。しかし、四季折々の変化と、その街を歩く人々の艶やかな着物の色合いが、地域の色として非常に美しいと感じた」という話をお聞きしました。そこで私は初めて、日本には日本独自の色彩があるということに気付かされました。
日本の色彩のベースは、地域で産出された土や木、石です。地域の気候風土が育てた素材の色がそのまま街の景観をつくりだすのです。各地域によって歴史や文化が違うのと同じように、色彩も異なり、独自の美しさがある。しかし戦後、社会が豊かになっていくなかで、建材の流通とともに日本中で流行の色合いが一定となり、地域それぞれの特徴的な色彩は徐々に失われていったのです。

街の景観を守り続ける フランスの色彩感覚に学ぶ

パリは、伝統的な古い街の景観を損なわれないように配慮されており、歴史的建造物の外観をそのまま使用し、構造的な補強を行ってから再利用することが多くあります。パリといえば、石畳が多いイメージですが、それはほんの一部で、古い街並みにある道路面は、アスファルトやコンクリートなどがほとんどです。歴史的建造物の外観をそのまま残すことで、街そのものの良さをそのまま活かせば、舗装面はあえて何もデザインしなくても魅力的に感じられるのです。そこで、ビジネス街区と古い街並みに分け、近代化と歴史の積み上げの差別化を図っているのです。
パリの近代的建造物には、個性的で芸術性の高い建物もありますが、それは歴史や文化がベースにあるからといえます。古い街並みを重視するのは、保守的な意味合いだけでなく、基本にベーシックなものがあってこそ、新しいものを入れていくことが可能になるのです。近代的な建造物を計画する場合は、世界的なコンペを行い、実力のある建築家がパリの街並みをつくっていきます。例えば、エッフェル塔やポンピドゥーセンターなどは、建築当初、パリの街並みとして違和感があるという人が多くいました。しかし、しっかりとしたコンセプトがある設計なので、次第に街に溶け込んでいきました。彼らは、先進性を見抜く目を持っており、ベースを大事にしていくことはもちろん、新しいものを取り込んでいかないと生き残れないことをよく理解しています。

色が溢れすぎる日本の景観、課題を解決する2つの要素

日本では、超高層ビルが建ち続けているのが現実です。ニューヨークを始め様々な近代都市を真似た、日本独自の文脈が感じられないどこかの都市で見たことがあるようなものが多く立ち並んでいます。また、広告効果を優先するあまりに色の彩度が高すぎるものもあります。その色彩は、周囲の優れた景観をも阻害しています。
こういった景観を目にするたびに、トレンド的な価値観に合わせているだけでは根付かない、自分の母国の歴史と文化に自信を持つことでしかよい景観はつくられていかないのだと強く感じます。しかし、このような状況の中でも、最近では、東京駅の再建のように、古いものを再生しながら新しいものと融合させていくといった素晴らしい事例も見受けられるようになってきています。
私は、美しい景観をつくるには2つのことが大事だと思っています。それは、ベーシックな色味とそれを超えていく先進性です。この2つのバランスがとても重要であり、まずベースがあって、時代を越えていく先進性も表現されていく事が重要です。さらに、そこに人々がつくりだす楽しい雰囲気をエッセンスとして加えます。地域によっては少し猥雑で楽しげな雰囲気も必要です。パリの商店街の街並みなどにも賑わいの色があり、それはとても印象的です。

「フランス(ヴァンヌ)と⽇本(⽯垣島)との景観の違い」

⽯で創られた擁壁と歩道(ヴァンヌ)と、原⾊使いが多い商店街(⽯垣島)の対⽐
古い街並みと⽯畳で構成された綿密な⾊の彩度調整で構成された街路(ヴァンヌ)と、彩度計画を無視した⾼彩度サインが全⾯に押し出された街路(⽯垣島)。

普遍的である "地色"が、生き物の"色"を際立たせる

私は、景観における床面のベースカラーに迷ったら地域の土の色にすれば良いと考えています。そのために、全国の土の色を集めています。環境をつくっているのは、ベースとなる土や石などの動かない低彩度の地色。目立つ色には、高彩度色の生き物の色に学んでいます。色を好みだけでデザインするのではなく、目立たせたい色を使うにあたっては、同時に地の色を整備していくことが重要です。基本的に、自然界において色を持っているのは、生き物です。色というのは、変化していくもののなかに存在します。その色の生死のサイクルを決めているのは自然であり、活動的な生き物の色を見て人々は感動を覚えます。その活動的な色の変化を支えるための、最も普遍的である色が"地"ということなのです。 だからこそ、色を提案したり決定したりする人たちが正しい知識を身に付け、「どのシーンでそれが使用されるのか?」「環境への影響はどうあるのか?」など、視野を広く持って色を選択し、賑わいを感じる色彩計画を行っていくことが重要だと考えています。ベーシックペイブのように、自然との調和をコンセプトにした舗装材が市場に広まるとともに、さらに新たな舗装材が生まれれば良いと思っています。

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